こんにちは。MAmeeともうします。
先日こんなことがありました。
夜8時頃、職場の事務所で一人残りデスクワークをしていると置き型の内線が鳴り響き、発信先を見てみるともう一か所ある事務所の内線からの着信だ。
「面倒な時間にかけてくるなぁ」
と毒づきながら内線を取ろうとしたら着信は切れてしまい、仕方なく掛けなおしたが、結局内線の相手は受話器を取ってくれない。
「帰宅前の連絡か?」
と思いながらも、緊急の用事だった時のことも考え受話器をおろしてから発信場所の事務所に足を運ぶことにした。
自分がいた事務所がある建屋から外に出て、節電で夜の闇に覆われた幅広の道を二度クランクのように曲がたところにポツンと発信主の事務所がある。
事務所前にたどり着くと案の定消灯されていて、中を一望できるドアのガラス張りの部分から事務所内を見渡してもだれ一人残っていない状態だった。
「普段帰宅のコールなんてかけてこないだろうに、なんやねん…」
100㍍にも満たない距離だが、無駄足を踏まされたことには変わりなく舌打ちをしたくなる気分に駆られながら元の事務所に戻ろうとした時。
(((ヴーーーー…ヴーーーー…)))
と胸ポケットの中のピッチが振動し着信を知らせた。
社外からの着信の場合、設置されたスピーカーからも着信を知らせる音が流れる。
だが、その音が聞こえないのでまたもや社内内線の着信だった。
「今度は誰だよ…」
と、振り回されている感に今度こそ一人舌打ちをしながらピッチの発信主を見てみると。
今まさに目の前にいる、暗くなった事務所からだった。
一瞬、鳥肌が立ちそうになったがすぐに常識的な思考で。
「電気だけ消して帰り支度を整えた後、奥にあるトイレにでも入ったんだろう」
そんな推測をした。
が、視線をめぐらすと扉横のテンキー付きのセキュリティは施錠されていることを表すランプを点灯させていた。
気づいてはいたが、そもそも目の前の発信主である事務所の端末も置き型で、事務所前に着いてからピッチに着信があるまで端末周辺には人影はなかった。
だとすると、「誰が?」という考えに至るわけで。
いっぱしの大人なら、機器の故障などを疑い事務所のロックを開け室内の具合をみるべき状況かもしれない。
けど、その時の僕は事務所内の閑散とした暗さと、奥のトイレへと続く通路の曲がり角を淡く照らす非常口の緑色の光がやけに不気味に見え、完全に雰囲気にのまれてしまっていた。
これ以上この場で発信主の「誰か」について想像し、暗い事務所の中をうかがっていたら、あの曲がり角からその「誰か」が出てくる。
そんな子供じみた恐怖を想像してしまった。
そんな考えを巡らせながらドアのガラス越しに中を凝視していると、自分がいつの間にか「誰か」がいる暗い事務所の中に立ちすくんでいるような錯覚をおぼえて、恐怖が最高潮に達し足早に事務所を後にした。
元の事務所への戻り道を速足で歩いている間、視界は狭くなり足元がふわついていた。
こういう得体のしれない恐怖を感じた時、僕は昔から眼球の後ろ辺りから頭頂にかけて引っ張られるような圧を感じ、左右の視界の端から視点の中心へと空間の感覚を圧縮されるような不思議な状態になる事があった。
そんないつもより速足だがいつもより長く感じる感覚は、LEDで明るく照らされた元の事務所の前に着くと収まっていた。
その後自分の席に着くがどうも座りが悪く、机上のスリープモードに入って暗くなった2面のPCモニターに薄く映る自分のシルエットに気味の悪さを感じ、その日はもう帰宅した。
よくあるような話ですが体験してみると震えてくるものがあります。
もし最後事務所に戻った時、胸ポケットにあるピッチに着信があったら。
そしてその発信元が目の前の置き型の端末からだったら……
などと、今でもそんなうすら寒いことを考えてしまいます。
一体何だったんだろうか。